「モノより体験」に幸せを感じやすい理由

「モノより体験」に幸せを感じやすい理由

科学的に人は、物よりも「経験」からより多くの幸福感を得られると証明されている

ソニア・リュボミアスキー(2014)人生を「幸せ」に変える10の科学的な方法 

人は何に幸せを感じやすいのか。モノと体験について、比較・慣れ・期待の3つの観点から紐解く中で、私たちが「大きな価値を感じるもの」や「幸福の最大の敵」の正体が明らかになってきました。

モノより体験に幸せを感じやすい理由

代わりが効かないから価値がある

“モノは比較がしやすいため、幸福感の持続が難しい”

この解釈として、私は人が幸せを感じるものは、代替不可なものであるという特徴があると思います。
自分にとって特別なものを人は比べようとしない。そもそも比べることができない、ということです。

特別というのは、それがその人にとってどれだけ強い意味を持つかということ。ではモノと体験では、どちらがその人にとって特別になりやすい性質があるのか。これは圧倒的に後者であると思います。

この理由は、体験が持つ社会的側面(誰と一緒にしたかやそこでどんな人と関わったかということ)や、季節・天候・空間など体験を構成する多くの要素が、その体験をその日そのときその人でなければ得られなかった特別なものにしていくからです。

例えば、「カフェに行く」という一見日常に紛れてしまいそうな体験でも、行く途中で会ったねこがじゃれてきて可愛かったとか、隣に座ったおばあちゃんが英語で話しかけてきたとか、帰り道空がいつもと違った色に見えて綺麗だったとか。そのときその体験を求めたから起きたことは感情を伴って、何にも侵されることのない特別な記憶になっていくのです。

モノの場合も、まずあなた自身がそのモノを得る意味をできるだけ多く見出そうとするでしょう。また、販売員さんや、他者の評価も、あなたがそのモノを得る意味をたくさん与えようとしてくれるでしょう。しかし、そこで得られるものは、体験が巻き込むものに比べて、ごくわずかになりがちであると私は思うのです。

また、体験はモノのように必要か手放すかの“判断”に迫られることがない。このこともまた、代替不可であるという特徴を強くしていると思います。

人は慣れる生きものなんだなぁ

新しいモノって、わくわくしますよね。
ただ、手に入ったときの幸せがどんなに大きくても、
その幸福感が持続するのは意外と短い気がしませんか。

この感覚の理由は、人は慣れる生きものだからだそうです。確かにモノはそこにあるうちにいつの間にか馴染んでいるし、使っているうちに習慣化されてしまう。習慣というのは当たり前・無意識でもやってしまえるようなことなので、その時に集中しようとしないと、なかなか幸せを実感するのは難しくなっていきそうです。

この“慣れ”こそが幸福の最大の敵という学者もいます。

一方で体験は刹那的です。また、時が経つにつれて人はそのときの経験をポジティブに捉えられるようになったり、美化する傾向があるそうです。思い出がいつまでも色褪せないという感覚を持つ人は多いと思いますが、思い出すごとに体験はアップデートされていくんですね。

期待との関係

映画でもレッスンでも旅行でも、何かを体験しようとしたときには計画が伴うことが多いです。その時間のために予定を開けたり、場所を選んだり。実はこの計画を立てている時が、もっとも人の幸福感を高めるそうです。体験に対する期待は、ポジティブな傾向にあるからです。

一方で、モノを得ようとするときも発売日までまったり予約をしたり、計画の段階が伴うこともあります。しかし、体験への期待と違い、所有への期待は人をイライラさせたり、負の感情をもたらすことがあるということがわかっています。

また、モノと経験への期待についてもうひとつ。モノには役割という側面が強いから、期待以上のことが起こりにくい傾向があると思います。

車は人を運ぶという役割、オシャレなインテリアもそれぞれ役割をもっていますよね。デザインや質、惹かれるポイントは様々でも、人はモノを選ぶときにモノの役割を意識せざるを得ない。そのため期待との差を生みにくく、モノの価値を低く見積もってしまうようになるのではないでしょうか。

一方体験にも、どういった感情や効果を得たいかという期待があり、期待通りだったりそうでないこともあるでしょう。しかし体験は、人・空間・時間帯やそのときの天候など、そこにまつわる様々な要因が、その人が想像しなかった出来事や感情を生みやすい。それが体験の価値を高めているように思うのです。


結びに▶◀

今回の記事は決してモノの価値を否定するものではなく、自身も暮らしを豊かにするヒントが一つでも見つかればと、研究者の言葉などから真剣に考察してみました。

ちなみにうちの母はビーチバレーボールのチームに入っているのですが、先日割れたビーチボールをリメイクして、シューズケースやペンケースにしていました。役割を終えたものに新しい役割を与えてあげる。愛着を持って接しているうちにどんどん特別になっていく、素敵なモノとの接し方だなと思いました。